PUMPQUAKESでは2020年よりオアハカの版画シーンをリサーチしてきました。版画にアクセスするきっかけになった東南アジアの版画コレクティブとの交流をもつ2つのスペースでした。新宿のインフォショップIRAと仙台の印刷スタジオanalog です。
グループによる版画制作を自分達の地域でも行っていく土台をつくるための試みとして、IRAをベースに活動する版画コレクティブA3BCによる版画ワークショップをanalogを会場に開催します。
当日は、はがきサイズの木版画をそれぞれつくります。基本的な技術については、講師から学べます。版画のモチーフに参考になりそうな本や版画作品なども会場にあります。彫刻刀などの道具もこちらで用意しますので、暖かくて汚れても良い服装でいらしてください。
講師:A3BC
A3BC (反戦反核版画コレクティヴ)は2014年の夏、新宿にあるインフォショップ、イレギュラー・リズム・アサイラム(IRA)にて結成。
東南アジアにある版画コレクティヴ、パンクロック・スゥラップ(サバ、マレーシア)、タリン・パディ(ジョクジャカルタ、インドネシア)、そしてマージナル(ジャカルタ、インドネシア)にインスパイアされ活動を開始する。これらのコレクティヴとの交流から、版画を皆で作る楽しさやスキルを学ぶ。
結成当初は反戦・反核をモチーフとした作品を多く手がけてきたが、近年ではさらに幅広い社会問題をテーマに版画を制作している。
話題提供:analog/PUMPQUAKES
タイとメキシコの版画シーンを作品を通して紹介します。
日時:2023年2月18日(土) 14‐19時
二部制(定員各10名)になりました。
ご希望の時間帯を記載の上、お申し込みください。
第一部 14:00-16:00
第二部 16:30-18:30
会場:press & bookbinding studio analog
参加費:無料(定員10名)
申込/問合せ:pumpquakes@gmail.com/050-5373-8514
主催:PUMPQUAKES
助成:公益財団法人 仙台市市民文化事業団
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「声を刻む」木版画ワークショップレポート
A3BC×PUMPQUAKES×analog
2023年2月18日、東京新宿のインフォショップIRA(イレギュラー・リズム・アサイラム)を拠点に活動しているA3BC(反戦・反核・版画コレクティブ)を仙台に招いて木版画のワークショップをひらいた。
会場は、六丁の目に位置するPress & Bookbinding Studio analog(analog)。ここは、DIY工房で、木工作業の工具や、シルクスクリーン、箔押し印刷、リソ印刷、レーザーカッターなどの特殊加工機を貸し出していて、オーナーの菊地充洋さんが道具の使い方を教えてくれる。菊地さんは「先行きの見えない不安な状況が続いているけど、DIYは生活力を高める工夫であり、行動だ」と語り、今回の木版画のワークショップの会場を快く提供してくれた。
会場正面には、オアハカから持ち帰った版画をかけた
ワークショップの講師として招いたA3BCは、東南アジアにある版画コレクティブ、パンクロック・スゥラップ(Pangrok Sulap、マレーシア・サバ)、タリン・パディ(Taring Padi、インドネシア・ジョグジャカルタ)、マージナル(Marjinal、ジャカルタ、インドネシア)にインスパイアされ活動を始め、実際に彼らと親交を深めながら、版画をみなで彫る楽しみやスキルを学んできた。2014年の結成当初は、反戦・反核をモチーフとした作品を多く手掛けてきたが、近年ではさらに幅広い社会問題をテーマに版画を制作し、木版画のワークショップも多数開催している。今年の4月28日から5月8日まで、東京藝術大学大学美術館の陳列館を会場に「解/拆邊界亞際木刻版畫實踐 (脱境界:インターアジアにおける木版画実践)」と題したアジア各地の版画コレクティブによる展覧会に、共同制作での木版画の出品を予定しているそうだ。
メキシコ・オアハカで、巨大な木版画群を街中で目にし、それらを制作しているコレクティブをリサーチしてきたPUMPQUAKESのわたしと長崎由幹は、リサーチにとどまらず、木版画の共同制作を仙台でも始めたいと考えていた。帰国後、志賀理江子さんのスタジオで開いた報告会にも参加してくれたA3BCの成田圭祐さんと中村友紀さんに相談するうちに、道具も仲間もひきつれて、仙台で木版画のワークショップを開いてくれることになり、この日はなんと、8名のメンバーで仙台に来てくれた。
▲A3BCのメンバーが、陰刻や陽刻、彫刻刀の使い分けでどのような効果の違いがでるかなど、参加者の彫りたいイメージをもとに、細やかなアドバイスをしてくれた
▲analogの菊地さんがみせてくれたインドネシアのパンクバンド「マージナル」の版画
▲PUMPQUAKESからはメキシコ・オアハカのコレクティブが制作する版画を紹介
▲知らない者同士が、肩を並べて作業する。道具の貸し借から始まり、小さな会話が生まれてゆく
「声を刻む」と題した今回の木版画のワークショップには第1部と第2部あわせて20名が参加してくれたが、そのほとんどが初対面だった。A3BCのメンバーが木版画のプロセスの基礎を説明してくれると、さっそく下絵を描きはじめた。いきなりなにかを表現するのは難しいかもしれないから……と参考資料や映像などもたくさん準備していたが、そんな心配は杞憂に終わり、みな思いおもいに描き、彫り進めていく。
◀「建築ダウナーズ」が宮城県丸森の山から切り出された原木を、版木として切り分け提供してくれた
互いに向かい合うのではなく、視線は版木に向けながら会話がなされ、彫刻刀が版木を刻む音やリズム、木屑をさっと払う感触などが、妙に心地よかった。A3BCのメンバーは、建築ダウナーズが分けてくれた木を用いての版画づくりにも挑戦した。聞けば、宮城県丸森で豪雨災害のあと自伐型林業を始めた人たちから分けてもらった木材だそうで、そこから、ウッドショックや、戦後の国策として進められた造林で植生が偏り、食物連鎖に大きな影響が及んでいることなど、実際に木を彫り進めながら、日本の山々の状況を教えてもらった。まだしっとりと湿度の残る木を彫るのは簡単ではなかったけれど、「木の感触がダイレクトに伝わってくる」と、A3BCが木肌の模様もうつされた記念の版画も作ってくれた。
▲黒インクがのったローラーを走らせ、紙や布にバレンや足踏みで刷ってゆく
白い紙の表面にイメージが現われると、ワっと歓声があがる。A3BCからの提案で、最後は自分がつくった版画について、それぞれに話をしてもらった。
「ピストルを向け合うような手の形をグルグルまわすと、対話をあらわす手話になる」と手話のイメージを版画にした人、「暗い雰囲気が蔓延している時こそ喜びに溢れた行動を通して生き延びよう!」とJOYFUL MILITANCY★の考え方を紹介し、庭をモチーフに版画をつくった人もいた。また、楽器やコーヒーなど、不安なときに心を鎮めてくれるものを版画にした人もいれば、忙しい毎日が続いているのでダラダラしたい、とくつろぐ姿を版画で表現した人など実にさまざまだったが、ここに、私たちのいまの心象が刻印されているようにも感じた。
◀版画を介した個々の語りに、集ったみなが聞き入る
東日本大震災から十余年が経つなか、パンデミックはもう3年も続いていて、ロシアとウクライナの戦争は長期化している。トルコ・シリアの大地震は、いまだ被害の全貌が見えないほどに甚大だ。政治、社会、環境、すべてにおいて解決の糸口さえ見いだせず先送りにした問題は山積しており、私自身、10カ月になる娘を抱えながら、未来の世代に申し訳なさを感じることがよくある。そんな鬱屈した時代に、知らない者同士が集まり、木版画を介して、最近考えていることをぽつぽつと話す。そして、最後はなんとか腐らずに生きていこうと励まし合う。小さいけれど、なにか確かさのようなものを感じられる場だった。みながつくった版画を布にも刷って、翌日は仙台一番町商店街でおこなわれるパレードに向かう。
[テキスト:清水チナツ、写真提供:A3BC、PUMPQUAKES]
★── Nick Montgomery, Carla Bergman “Joyful Militancy: Building Thriving Resistance in Toxic Times”(A K Pr Distribution, 2017)怒りや恐怖、激情は、必然的に人々を過激な運動に駆り立てるが、本来、政治運動や闘争のなかにも友情や喜びは見いだせることを、活動家としての経験から説いた一冊
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おまけ
DIYパレードレポート
工藤夏海「DemOTRa!」
DemOTRa!(でもトラ!)は、Demonstration trainingの略で、美術家で人形劇団ポンコレラを主宰する工藤夏海さんがはじめたプロジェクトだ。「いま社会に訴えたいことを、素早く手元で言葉や形にしていく練習、効果的にアピールする練習、歩く人にも見る人にも力になるようなパペットやプラカードを工夫しながら制作する場」として生まれた。
夏海さんは以前、PUMPQUAKESとA3BCを「私とあなたの間をとりもつものの話~メディウム(媒介)としての木版画と人形劇~」と題したトークを企画し、引き合わせてくれてもいた。
その後も仙台市域に暮らす仲間たちにも呼びかけ、世界中で行なわれているデモの様子を調べたり、プラカードに描きたいことはなにかを話し合ったり、古紙や古着、空き缶などを用いたパペットづくりなど、さまざまな練習の場をつくってきた。この日は、生み出された大小さまざまなパペットを手に歩くDIYパレードだ。夏海さんは、「悩んで、考えて、助け合って、楽しんで、歩いてくださいね」と呼びかけた。
◀DemOTRa! の活動のなかで生まれてきたパペットに、版画も合流
わたしたちは、木版画ワークショップで刷った版画の布をA3BCのメンバーたちとパペットの体にピンで留めていった。雪のちらつく寒空だったけれど、仙台の一番町商店街のアーケードのなかで笛やドラムの音が響き始めると、大小さまざまなパペットが動き出した。始まりや終わりも、シュプレヒコールもないパレード。頭上で、大きな人形がゆらゆらと踊り、道行く人たちが、足をとめ不思議そうに、可笑しそうに見ていて、しかしその表情は穏やかだった。わたしも娘と小さなパペットを持って歩いたけれど、ふっと「予祝」という言葉が浮かんできた。予祝とは、「夢が叶っている未来の姿を想像して先に喜び、祝うことで現実に引き寄せること」だが、そんな気持ちになった。パレードをとおして関係性や場に拡がりが生まれていて、それはあたかもわたしたちがどんな世界を望んでいるのかを表現しているかのようでもあった。
世界中のデモやパレードを参考にしてつくられた巨大パペット
以前、夏海さんはZine『にんぎょうげきのとびら』のなかで「人形劇は民族文化の継承のほか、さまざまなことで苦しむ民衆を励ます存在でもあり、老若男女、人々に語りかけ、励まし、一緒に泣いたり笑ったりして、生きることを支えてきた。私が一番興味をもっているのはこの部分かもしれない」と、人形劇の魅力について語っていた。言葉だけでは表現しきれない領域がこの世にはあって、言葉を話さない人形に、人々は自身の胸の内を見るのかもしれない。
夏海さんは「世界の隅から隅まで、そこにある全部で景色が完成している」とも語るが、その言葉には、周縁に追いやられたものへの眼差しや連帯が滲む。
個々のプロジェクトは、そのフォームもペースも異なる。しかし、同じ方角を眼差していたと思う。東日本大震災というあの大きな出来事が、決して災厄としてのみの破局を迎えないために、自分たちの生活を少しずつ繕っていくこと。その連なりは、生のほうを向いていると思う。この12年、それぞれが小さな場をつくり、集い、学び、手を動かしながら少しずつ前に進んできた。それが、たまたま交錯する日だったけれど、わたしたちは、またきっと集える。
[テキスト:清水チナツ、写真提供:A3BC、PUMPQUAKES]